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資料 自伐林業②

シンポジウム  自伐・小規模林業の意義と可能性

[記録/私的感想]

◆シンポジウムを聴いて

     泉 英二(愛媛大学名誉教授)

d0333343_16145947.jpg 今回のシンポジウムには記録役を任され出席した。報告者の方々は発表時間が限られていたため意を尽くせなかった面もあったと思われるが、配付資料がたいへん充実していたので、こちらも併せれば趣旨は十分に伝わったと思われる。

 また、討論は白熱したやりとりが続き、いくつかの重要な論点が提示された。以下、今回のシンポジウムを聴いた私的な感想を述べてみる。


1、中嶋健造氏らの自伐林業論と研究者の見解

 中嶋氏らの主張はきわめて明快である。まず、日本の林業を、「施業委託型」と「自伐林業型」に区分し、国が積極的に推進している「施業委託型」については、①高投資・高コストである、②地域雇用力が低い、③皆伐を含む荒い施業が必然となり、山を荒らす、④連年収入が得られない、⑤前提となる集約化が困難である、といった問題点を挙げ、国の方向は根本的に誤っているとする。

 他方で、「自伐林業型」は、①低投資・低コストである、②地域雇用力は一〇倍以上、③間伐中心の長伐期で、環境保全的にも良い、④連年収入が得られる、⑤農業との兼業も容易である、⑥林業技術が小規模なので新規参入が容易である、⑦木質バイオマスエネルギー利用にも適合的、といったことで、林業的にもまた山村社会を持続させるためにも優れた方法であると主張した。さらに、「自伐林業」のやり方は、これまでの「家族経営型」だけでなく、「集落営林型」(集落の山林をまとめ、集落で経営)や、「大規模山林分散型」(大山林所有者(個人、企業、自治体、国)の山林を自伐林業ができる単位に分散化して経営)、などを開発中とのことである。

 このような中嶋氏らの主張に対して、佐藤宣子氏は、2005年及び2010年の世界農林業センサスの組換え集計に基づいて、自伐林家が素材生産シェアの二割弱を占めており、しかもそれがこの五年間で大幅に増加していることを明らかにした。これは中嶋論を大いに補強するものと評価できる。松本美香氏は自伐林家の活動実態を明らかにすべく、原木市場調査、林家聞き取り調査等を実施したが、明確な展望を描けるデータは得られなかったとする。

2、討論

 討論では、自伐林業の動き自体を否定する意見は出なかった。しかしいくつかの疑問・意見が表明された。①自伐林業を析出する基盤は崩壊したのではないか。山村はそこまで弱っている。②自伐林業方式で、地域や日本の森林全てを管理することは不可能ではないか。森林組合や第三セクター等の役割はそれなりにあるのではないか。③自伐林業では利益が出るというが、それは自分の身体を切り刻んで得た労賃部分にすぎないのではないのか。自伐でも請負でも林業が成立する価格水準を実現することが根本問題ではないのか。

 討論で出された論点はいずれもそれぞれに重要であり、今後さらに議論を重ねる必要がある。

3、私の感想

 中嶋氏らは自伐林業論を通じて、①森林・人間関係論、②森林施業論、③林業技術論、④林業経営論、⑤普及論、⑥地域論、⑦森林・林業政策論、などにまたがる多面的な問題提起を行っている。氏らの林業をめぐる在り方の主張は、きわめて包括的であり、全面的といえる。私は二年前に国の「森林・林業再生プラン」について詳しく検討した際、この政策にもっとも明確に反対論を提起したのが中嶋氏の自伐林業論だと評価したことがある(「山林」平成24年10月号)。

①自伐林業論の射程距離

 ところで、中嶋氏らが提唱する自伐林業論の射程距離はどの程度と評価すべきであろうか。「森林・林業再生プラン」への批判というレベルにとどまるのだろうか。決してそうではない、というのが私の見解である。

 折しも今年は林業基本法が制定されて50周年である。林業界をあげて基本法林政(特にその構造政策)の評価をめぐる議論が行われると予想されるが、その際、この自伐林業論の問題提起は避けて通れないものになると私は考えている。

 1959年に設置された国の「農林漁業基本問題調査会」は、予想される第二次産業を中心とする経済発展に第一次産業はどう対応すべきかを議論した。農業については、生産政策(選択的拡大)、構造政策(自立経営農家の育成)といった目新しい政策を打ち出し、それが61年の農業基本法に結実した。

 他方で、林業関係の答申では、構造政策において、当時、林業生産活動が活発だった「家族経営的林業(=農家林業)」を担い手に措定したため、大きな議論を呼んだ。「家族経営的林業」の考え方は農業における「自立経営農家」の育成政策と表裏一体の考え方ともいうことができるが、この構造政策は、①伝統的林学の考え方では、「林業とは大面積所有者が行うもの」との固定観念があり、それを答申が「資産保持的」として否定したこと、②これまで独立していた、農政と林政が担い手政策で強い連携を持つことになること、といった特徴を持っていた。大山林所有者や全林野だけでなく、おそらく林野技術官僚もこのような方向を認めることはできなかったのではないか。その結果、農業のように直ちに基本法制定に至らず、成立は64年までずれ込むことになる。このタイムラグが構造政策にとってきわめて大きな影響を与えたと私は思って
いる。

 具体的には、62年に林野庁森林組合課が創設した「林業協業促進対策事業」が大きな転機となる。この事業は、当時不活発組合が多かった森林組合に新たな役割を担わせようとしたものである。その考え方は、①今後の林業は、生産性を上げるために機械化され、しかも社会保障も完備した通年雇用の労働者により担われるべきである、②例えば、4haの所有者が七人いる場合(合計約30ha)、所有林は森林組合に施業委託させることにする、③約30haは機械化されれば二人で管理できるので、その二人は森林組合に所属する専業的林業労働者になってほしい(他の五人は林業から離れてもらってよいとの含意がある)、④そのために、森林組合に対して国はチェーンソーや集材機といった機械装備を補助しよう、というものであった。これは、森林組合を林業請負事業体に育成しようというもので、基本問題答申の「家族経営的林業」を担い手にしようという方向の全面否定といってもよいものである。

 その後、国有林解放運動への対処もあってようやく64年に成立した「林業基本法」では、構造政策としては、「家族経営的林業」、「森林組合」、「大山林所有者」を並列し、特定の担い手を措定することを避けたと私は解釈している(学会的には「家族経営的林業」が担い手に措定されたと評価されている)。

 立法後展開された「林業構造改善事業」は、「基本法林政」の中核をなすものだが、第一次林構の内容をみると、林道約70%、森林組合約25%であり、家族経営的林業対策は微々たるものであった。具体的内容からすると、森林組合重視路線をとったとみてよい。

 68年に創設された「森林施業計画制度」は属人型であったが、74年には属地型の「団地共同森林施業計画制度」が増設され、その後、この方向が強く推進された。七五年以降推進された「地域林業政策」においてもその中心に森林組合が位置づけられた。

 以上みたように、日本の林政は70年代以降一貫して自営型の農家林業や大山林所有者を軽く扱い、森林組合への施業委託を推進して現在に至っているといえる。

 中嶋氏らの自伐林業論は、これまで国から軽視されてきた「家族経営的林業」や自営型の「大山林所有者」への再評価を強く要請するものであり、単に「森林・林業再生プラン」への根源的批判にとどまらず、50年に及ぶ国の「基本法林政」全体に対する根本的問題提起となっていると評価することができよう。

②今後の検討課題

 第一は、中嶋氏らが批判する「施業委託型」の問題点の検証である。前提となる施業集約化の実現可能性はどの程度か、高性能林業機械化のコストはどの程度か、施業の荒さはどうか、森林組合の体質の問題、等々多くの点で具体的検証が必要であろう。

 第二は、自伐林業の析出基盤の検証である。佐藤氏の分析結果はあるものの、センサス結果からすると農家林家はさらに弱まっていることは否定できないと思われる。この点のさらなる検証が必要とされている。

 第三は、そのことを前提とすると、自伐林業を再構築し、発展させる道筋をどのように設定できるのかが問題である。中嶋氏ら主張するように「少しの支援さえあれば直ぐに立ち上がる」のかどうか。山村側の析出基盤が弱体化しているとすると、新規参入者を増やすしかない。林野庁の「緑の雇用」や山村対策だけではまったく不十分である。農林水産省、総務省等も連携して、定年帰林(農)を含め、都市住民の一部を農山村へ積極的に戻す新たな総合的政策が必要とされており、そのなかに「自伐林業」が重要な「受け皿」として位置づけられることになれば、新たな展開が期待できる。一般的にいって国の動きは遅いので、農山村自治体の理解が当面のポイントだろう。

 第四は、山本氏の提起した林業が成り立つ適正な木材価格水準はどうあるべきか、についての議論である。この問題は議論しても無駄だということでこれまで聖域化されてきた感がある。現実には市場に振り回され、その落差の一部を補助金により補填され、その補助金に振り回されてきたのが日本の森林・林業である。日本の今後の長期的な森林管理とその担い手を考える上で、この木材価格問題に関する議論は避けて通れない最重要の課題のひとつであろう。

第五は、農業政策への目配りである。今後の農業政策は、「自営型」から「委託型」へ大きく転換しようとしているように思われる。このことについて、しっかりと認識しておく必要がある。

 第六は、森林に関わる人間とその組織はどうあるべきか、ということの原理的検討である。「所有」という概念の原義にまで立ち戻り、地球環境制約下において、人間は植物資源とどのように付き合っていくのか。その場合に、「自伐型」「自営型」が本来の在り方と主張できるのか、ということである。官僚組織による国有林管理の実績は、この議論にも大きな示唆を与えている。また、森林組合組織についても冷徹な議論が必要である。

 第七は、用語としての「自伐林業」、「自伐林家」である。「自伐」という用語はなかなか実感的ではあるが、やはり学術面からの整理が必要である。自伐は自営と言い換えることが可能と思われる。

 また、「自伐林家」は、「林業自営林家」といえるが、中嶋氏らの「自伐林業」概念ははるかに広いようだ。氏らは常に実践の中から概念を作りだしてきており、今後、「自伐林業」概念がどこまで拡張されるのかについて、大いに注目する必要がある。

 以上、中嶋氏らの巨大な問題提起は、後の討論で提出された論点などとともに、国や地方自治体の林政担当部局だけでなく、林政学・林業経済学の研究者もしっかりと受け止めて、きちんと議論をする義務があるように思う。 
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by npo-tosanomori | 2014-03-27 19:40

資料 自伐林業①

シンポジウム  自伐・小規模林業の意義と可能性

[レジメ]

◆本当の林業再生と中山間地域再生のキー「自伐林業」「自伐型林業」

     中嶋健造(NPO法人土佐の森・救援隊理事長)
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1、2つの林業の手法

 日本には2つの異なった林業の手法があると思っている。

 第1は、「施業委託型林業」。山林所有者が自分では施業をせず、森林組合や民間林業事業体へ委託してしまうタイプだ。請負う側は専業の企業体(森林組合や素材生産業者)で、山林と施業の集約化を図ることによって施業単位を大規模化し、高性能林業機械を使うことによって生産性を重視した施業を実施します。一度に大量生産することから、大量消費の規格品(合板・集成材)を大規模に流通させようという方向に向かっている。こうなると、短伐期皆伐施業になりがちだ。

 第2は、「自伐型林業」だ。所有者や地域が自ら施業を行う小規模分散型、地域経営型林業で、収入を毎年得なければならず、持続性を重視した長期的森林経営を展開することになる。皆伐は行わず、自然に長伐期択伐施業おこなうようになる。量ではなく品質重視の多品目生産を目指し、収入を向上させるためやリスク分散させるため、限られた森林の多目的活用に向かう特徴がある。

2.、「施業委託型」~このいびつな林業~

 現在、林業が成り立つ、成り立たないということをどういう判断基準で言っているのだろうか。多くの場合、山林所有者は作業(伐採・造材・搬出・出荷)すべてを森林組合等に委託し、森林組合等からお金がかえってくれば「儲かった」、かえって来なければ「儲からない」と判断している。山林所有者は伐採・搬出等の作業は何もせずにほぼ全面委託だ。これが日本における一般的な林業の現状なのである。農業に置き換えてみると、農地を所有する農家が、農作物栽培から販売を他者に委託し、その上前をはねるという、かつての小作人農業のようなものだ。山林所有者は自ら林業を全く行わずに、他者に委託する他者依存型林業(他者任せ林業)といえる。自らまったく汗をかかずに収入を得ようとするわけだから、ちょっとご都合主義というか傲慢と言われても仕方ないのではないだろうか。また請負う側も一部の事業体に集約され、とても産業ということはできない状態だ。これは「所有と施業の分離」し、施業を請け負う事業体に集約化し、その請負事業体の生産性を高めることが近代林業だという手法が一般化してしまった結果であると考える。

 少々極端にいうと、今、森林・林業業界は、森林組合という競争のない事業体が独占する異常な状態になっている。所有と施業を分離させ、企業化させた森林組合に請け負わせるという現在の林業施策がさらにこれを加速させている。

 農業等他の1次産業でも、2次産業でも3次産業でも、経営者は自ら経営をおこない、収益を上げるために自ら生産・製造・流通・販売行為等の労働をおこなうことが当たり前であり、これが普通の経営というものだ。

 しかし、日本の林業は、この当たり前の経営や労働が無視され続けてきたといえ、全くいびつであると言わざるを得ない。このいびつな林業が、国や地方行政、学者、事業体、林業界すべてにわたり一般化してしまっている。森林蓄積量が増えた現在、日本の林業はもう一度、こういう基本的なところから考え直していかないといけない時期に来ていると考える。

3.、「施業委託型」林業のもたらしたもの~中山間地域の衰退~

 昭和30年代45万人ほどいた林業就業者は現在、約10分の1にまで激減している。この激減した人たちのほとんどは中山間地域住民だ。中山間地域住民は長年、委託型林業に慣れてしまい、自伐するということも、自伐すれば十分収入になることも忘れ去り、林業を捨ててしまったといえる。端的に言えば、これが中山間地域衰退を進展させた主要因と言えるのではないだろうか。

 残っている5万人弱の従事者は、林業専業のプロの従事者ばかりだ。本来、中山間地域には、農業や恒常的勤務を行いながら副業的に林業に携わってきた多くの人々が存在していた。この人たちを林業から切り離してしまう政策が、結局中山間地域の衰退を加速することになったのである。

4.、「施業委託型」林業の問題点

 私は「施業委託型」林業の問題点を次のように整理している。

①所有と施業が分離された手法であるため、林業と山林所有者の距離を長年の間にどんどん遠ざけてしまった。現在、原木価格を把握している山林所有者などほとんど存在せず、代が変わった所有者では所有する山林の場所すら知らない人も多い。この手法が山林所有者の林業離れを起こした主原因である。

②林業を木材伐採業に追い込んでしまった。森林組合と素材生産業者は、山林所有者から委託を受けて実施しているが、何を委託されているかというと、原木の伐採とその搬出・販売である。生産性の上がる仕事(伐採・搬出)を追いかけ、林業全体の仕事をおこなわなくなっている。またこれにより本来の森林経営も姿を消し、おこなわれているのは伐採業者の企業経営ばかりとなった。また、伐採業の専業事業体ばかりとなり、かつては盛んに実施された森林の多目的活用も激減した(森業・山業の消滅)。

③施業全てを委託するということは、山林所有側は、植林や育林期間(間伐も含む)の作業とそれにかかった費用は全て投資費用となり、主伐時に利益を得ると同時に、それまでの費用を回収するという手法となる。この手法は、材価の低い現在では成り立たないことが証明されている。例えば、主伐期が近づいている現在、主伐を委託すると約50万/ha程度の収入となる。再造林を委託するとその費用はその収入をはるかに超え100万円程度かかる。さらに翌年からは下草刈り費用も加わる。大赤字である。ということは、持続的経営ではないということである。この手法は過去に分収造林等でおこなわれ、すでに破たんしていることから見ても明白である。

④大規模に施業されたときに、規模の大きな作業道や林道、皆伐による土砂災害や環境破壊が誘発される。ここ数年、林業盛んな地域上空を飛行機で飛ぶと、山は皆伐や過間伐が進み、かなり荒れ始めている状況がどんどん進展しているように見受けられる。

⑤大型機械化が近代林業と勘違いし、目先の利益を追求する生産性・効率性一辺倒の企業経営型は歪みを生む。1人1日10m3以上という高い目標が設定され、伐り過ぎ、荒い作業道、荒い施業が当然ついてまわることになり、さらに生産性が上がる皆伐への指向が強まっていくことになるだろう。

⑥大量生産・流通される木材の利用は合板・集成材が中心となる。これらの買い取り価格は1m3当たり8-10千円である。このため、原木価格の大幅な低下を招いた。また、搬出間伐のみに補助金を出したため、一気に原木生産され、さらに価格低下を招いた。

⑦地域での林業施業実施者が少数に特定され、産業としての林業の規模が、縮小する。全国で林業実施者が森林組合だけという市町村も多いのではないだろうか。その森林組合の職員も数十人、というような状況に陥っているのだ。通常、各産業において市場が急拡大した時、何が起こっているかというと、特定の団体や個人しか対応できなかったものが、一般個人でも対応できる状況になった時に市場が急拡大しているのである。IT・携帯・自動車業界、みなそうである。これが各業界のイノベーションなのである。農業が大きい産業であるのは、地域住民が多く対応できているからである。林業は一部事業体に集約化したため、市場拡大のセオリーに反してしまったのである。

5.、高性能林業機械化への疑問

 施業委託型、企業経営型の場合、広い道を作り、そこへ高性能林業機械を導入することが求められている。高性能林業機械導入ということは、どういうことかちょっと整理してみよう。

①4人を専属雇用し給料を払う必要がある。
②4人を雇用するために約1億円前後の機械投資が必要となる。
③その機械の減価償却を計上し、さらに年間1千万円前後の修理費を見込む必要がある。
④1日200~300㍑の燃料(軽油)が必要となる。

 広い道と高性能林業機械化は、「低コスト林業」を実施する決め手のようにいわれているが、実は、まったく逆で、「高投資、高コスト型林業」となるのである。日本を代表する大企業でも、4人雇うために1億円を投資するなど常識では考えられない。この一般的な非常識が森林組合等の林業事業体では当たり前の状況である。それも間伐施業においてである。森林組合にそんな体力があるのであろうか。これで安い木材を扱うのだから、採算が合うはずがないのである。

 しかも、このやり方の場合、「施業の共同化・集約化」が必須条件だが、この大規模な集約がまた難物でそう簡単にはいかないのである。実に無理がある手法を採用しているのだ。そろそろ気付いてもらいたいと感じるのは私一人ではないだろう。

6.、国の政策の方向

 国は40年以上前から「自伐型」ではなく、森林組合への「施業委託型」を推進する方向を取り、しかも昭和50年代からその方向を強めてきたといえる。

 そして民主党政権下、平成22年度からの「森林・林業再生プラン」による林政は、その方向を極端に強めることになってしまった。当時の民主党政権の認識は、「山林所有者や地域住民は林業への関心を失い、実施能力がない」ということだ。この認識を大前提に「委託型・請負型」の大規模集約施業一辺倒の政策を展開し、「自伐林家」を政策の対象外においてしまった。生産性と2次産業化を重視し、実施事業体には高性能林業機械を導入させ、企業経営論理を導入させたという次第だ。これは問題点や欠点も多い林業一辺倒に追いやってしまったと考えるのである。

 「森林・林業再生プラン」林政による支援要件を改めて整理すると、

①新たな「森林経営計画」制度は、集約化を重視し林班単位の属地型が主体としている。これは「施業委託型」への極めて強い誘導といえる。属人計画については、大山林所有者の強い働きかけの結果、制度は残ったが、これまでの「30ha以上」から「100ha以上」と面積条件が大幅に厳しくなり、結果的に自伐林家の排除が明確になったといえる。

②「森林経営計画」を樹立した者(森林組合や業者でもかまわない)が「経営者」と位置づけられ、そこへ交付金・補助金が流れ込むようになり、森林所有者でやる気がある人でも、この条件をクリアできなければ、交付金・補助金から除外されることになった。

③搬出間伐を促進するため、量を多く出すほど補助金が増える仕組みとなり、結果的に荒い施業(7-8割間伐の容認など)に誘導している。

7.、「自伐林業」とは

 それでは、ここから自伐林業についてまとめたい。自伐林業といえば、自分の所有している山を自分で整備し、自分で伐出する人を思い浮かべると思うが、これは自伐林業を狭く捉えた定義だ。狭義の自伐林業といえる。私は、地域や集落の山を自分たちで整備し、木材を出荷して収入を得る人たちも自伐林業と考えている。とにかく、人任せにしない自立経営型林業のことだ。広義の自伐型林業といえる定義だ。私は、今後の自伐林業の定義は、この広義の自伐型林業であるべきと考えている。故に私の主張する自伐林業はこれまで一般的に理解されていたものではなく、いわば「New自伐林業」である。

 自伐林業実施者は、毎年収入を得つづけていくことが大前提となる。そうでなければ生業にならないし、持続的な林業が展開できない。さらに、限られた森林から持続的に収入を得ていくためには、木の質や山の質を上げていくことが必要となる。そのため良好な森づくりが自然におこなわれるのである。

 古くから持続的に展開してきた自伐林業家は現在でもきちんと成り立ち、彼らの森林を見れば、その森づくり力の凄さは一目瞭然だ。要するに自伐林業は、収入をあげる施業と良好な森づくりを両立させる、非常に優れた環境保全型林業といえるのである。

 さらに自伐林業家は森を多目的に活用し、様々な副業を付け加えるという特徴がある。本来林業は季節性があり、春夏は施業しない方がよいため、農業と兼業でおこなう人も多くみられるし、これがかつての山村や里山の一般的な生業スタイルであったはずである。また限られた山林から収入を得なければいけないため森林資源を見極め多目的に活用し始めることになる。なかには、加工等の6次産業化に進む人もでてくる。企業経営型で原木出荷の専業になっている森林組合や業者だけになった地域ではこういう副業が完全に消滅してしまっている。自伐林業推進はこういう副業復活につながり、小さいかもしれないが新たな流通や市場も生まれてくるはずである。こういうマニアックな市場が積み重なれば、地域にとっては大きな流通や産業になり、他の産業との連動・融合の道も切り開かれるだろう。

 面積ポテンシャルのある自伐林業を主業とし、観光や農業・加工、森の多目的活用等を副業として展開したときに中山間地域の、百業スタイルともいうべき生業スタイルが生まれ、中山間地域への大規模な人口還流を産む可能性があるということだ。

8.、自伐林業との出会い

 私が所属する団体「土佐の森・救援隊」は、設立当初から林業作業すべて(伐採から販売まで)自ら実施してきた団体だ。設立者が「林業は誰でもできる。林業の基本は自ら行うこと。昨今は小規模な山林所有者が多いことが林業の発展を阻んでいるという意見が多いが、これは間違いである。山林所有者が多いということは林業家になる可能性がある人が多いと、捉えるべきである」という主旨で立ち上げた団体である。故に参加者全員林業に作業研修をおこないながら、自伐林業的に作業を実施している団体である。

 そういう中、団体を立ち上げた当初、平成15年頃のことだが、私も活動に参加していてほんとうに驚いたのであるが、一定の林業技術を身に付けたメンバーで実施した場合、一人あたりの日当に換算したとき頻繁に2~5万円になるのである。平成15年頃は既に林業は儲からないということで、衰退産業扱いされてから久しく経ち、放置林が問題視されていたころだ。常に販売できる材(末ロ:14 cm以上)ばかりを出せるわけではないが、拡大造林から40~50年経った山はかなりの割合で売れる材に育っている。実際に地道にやってみると、儲からないどころか、かなり儲かる状況であったのである。

 一般的常識とは異なったため、これには正直ほんとうに驚いた。実際に土佐の山間で自伐林業を実施している人を訪ね、この体験を話してみると「やっとわかったかや、だから我々はやりゆうがよ」とニヤリと笑いながら土佐弁で話してくれたのだ。目が覚めたというのはこの瞬間のこと、さらに年収1千万を超える自伐林家がいることもわかってきたのである。

 この自伐林業が経営的に成り立つことに加え、就業力や森づくり等の環境保全力にも優れた、非常に素晴らしい林業であることに気付いたからこそ、地域で対応可能な自伐林業方式の開発と、その推進が日本の林業再生につながると確信し、自伐林業推進に邁進し始めたという次第だ。

 要するに林業は、他者に委託すれば収入にならないが、自らおこなえば十分収入になるということが分かったのだ。これは、他者依存型の林業が当たり前という状況にしてしまった現在の日本や中山間地域からすっぽり抜け落ちていた視点ではないだろうか。

 なお、林業作業を請け負う業者が存在しているということは、この請負業は成り立つということを示している。故に、木を伐って搬出し販売する行為自体は成り立っているということだ。

9.、自伐林業の可能性

 国策としての「森林・林業再生プラン」は、「山林所有者や地域住民は意欲を失い、森林経営ができない」という前提に立っているが、その前提は果たして正しいのだろうか。

 平成18年度に木質バイオマス事業を展開するために、山林所有者と山村住民全員にアンケートを実施した時のこと。その際、山林所有者の6割の人が「自ら林業を実施したい」と答えたのだ(その後、全国の約30の地域でも同様のアンケートを実施しましたが、だいたい6割で、最低でも4割が自伐指向を示している)。そこでエネルギー利用のために間伐材・林地残材の収集を、地域住民誰でも出荷できる仕組みとして展開したところ、稼働していた自伐林家に加え、一度やめた林家が復活したり、農家やサラリーマン、定年退職者等が一気に材を出荷し始めたのだ。

 その後、林業を生業にまでステップアップする地域住民も続出し、持続的職業として認めたIUターンの若者も参入も始まったのである。アンケート結果で明らかになったように、地域住民や山林所有者は意欲を失うことなく、後押ししてくれることを、支援してくれることを待っていたということだ。支援する予算は少額だったが、自伐林業支援し始めた途端に、このような結果が出始めたことの背景を、もっと国や行政は理解すべきではないだろうか。

 山林所有者や地域住民が林業をできるような支援や事業を国はこれまで行ってきたのか。逆に所有と施業を分離する支援ばかりで山林所有者らの意欲を失わせる方向になっていたということではないか。実際に現在でも、私の話を聞き自伐林業を展開しようと考え、県や市町村の林業部局に相談すると決まってこのように言われるようである。「あなたは何をバカなことを考えているのです。あなたに林業をおこなうことはとても無理です。早くあきらめて森林組合に委託するように」と。意欲のある地域住民の踏みにじる発言である。こういう点は是非、林業行政にかかわる人たちには反省をしてもらいたいものだ。

 また、自伐林業は参入が簡単で、多くの人々が関わることが可能だ。「土佐の森・救援隊」は、素人が集まり、研修を繰り返しながら林業のすべての作業をこなしている。これは林業自体、それほど難しいものではないということを示している。急傾斜地や重い原木を扱うことから危険度はかなり高いことは確かだ。しかし基本に忠実に、スピードやノルマに追い立てられなければ、さほど難しいものではないと感じる。

 3トンクラスの小型バックホーで作業道を敷設しながら、林内作業車や軽架線(当団体で開発した安全な搬出手法)で搬出すれば、誰でも実施できている。また自伐林業家は1日2m3程度出荷すれば十分収入になる。また使う機械も小規模だから投資額は少なくてすむ。これだから参入が容易になるのだ。農業や土建をおこなっている人であれば、ほとんど投資なしで参入できるのではないだろうか。

 私の試算では、高性能林業機械を導入した請負型企業林業に比べ自伐林業は、森林面積当たりでの就業者数は10倍以上になり、また1人1日2m3程度で十分収入になるので、10m3以上生産しないと採算が合わない前者に比べ伐出材積は5分の1ですむ。実際に自伐林業方式と木質バイオマス利用システムと一体化させて展開した地域では、林業従事者が10倍以上になったところも複数存在している。

 具体例を挙げると、高知県仁淀川流域では、以前は林業専業事業体3,自伐林家7-8人、森林ボランティア団体2といった活動状況だったが、自伐林業が展開したために、専業林家が30人を超えた。その内半数はIUターン者だ。副業的自伐林家は50人以上、林地残材出荷者160人以上となり、素材生産量は1万m3を上回った。これは地元森林組合の2倍以上の量となったのである。

 この結果は何を意味するか。自伐林業推進を官民協働して実施すると、生産量でいうとその地域に森林組合を新たに2つほどつくったに等しい成果が出たのである。それも大きな支援予算を必要とせずに、である。「小は大を兼ねる」ということだ。「自伐林家は小規模だから生産量や安定供給できない」とよく言われる。しかし対応者が増えれば、生産量や安定供給できないどころか、大規模事業体を上回り、生産拡大・安定供給に貢献するのである。

 それと見落としてはならないことが日本は森林国だということである。日本の森林率は66%、高知県は84%、中山間地域はそれ以上、90%を超える自治体も多いはずである。これまで森林地域であっても、農業や観光中心の政策を主に置いていたのではないだろうか。圧倒的面積率を占める森林を活用する森林・林業政策はほとんどの地域が、ほったらかし状態ではなかっただろうか。自伐林業はこの大きな面積ポテンシャルを持つ森林活用の主政策になり得るのである。要するに中山間地域には対応してなかった大きな開発領域が残っているといえるのである。

10.、多様な自伐林業を創り出し、中山間地域を再生しよう

 このように自伐林業は現行林業の欠点や問題点を補って余りあることがわかってもらえただろう。自伐林業推進は、持続性・環境性・就業力を重視した責任ある林業への転換というとても大事な仕事だといえるのだ。

 この自伐林業が拡大すれば中山間地域の林業市場を大きくし、新たな地域産業も創出されてくる。そのために我々も地域住民誰もが展開できる普及型の自伐林業方式をいくつか模索している。

 具体的には、これまでの、①家族経営型に加え、②集落営林型(集落の山林をまとめ、集落で経営)、③大規模山林分散型(大山林所有者(個人、企業、自治体、国)の山林を自伐林業ができる単位に分散化して経営)、などを開発中だ。

 このような自伐林業を生業としながら、農業や他の副業と組み合わせて生業化している中山間地域住民やUIターン者が増えている。なかなか生業にならず苦しんできた中山間地域農業が、自伐林業と組み合わせることにより生き返るはずだ。中山間地域への人口還流の武器になり、森林環境保全にもなり、中山間地域再生につながる唯一の手法が自伐林業ではないかと私は考えている。自伐林業が全国に展開すれば、林業就業者が50万人を超えることはそれほど難しくないだろう。関連するさまざまな森業や山業を発展させれば、100万人に達することも決して夢ではないと私は考えている。

 林業先進地域であるヨーロッパでも自伐林業家が増えていると聞く。ドイツには林業就業者が20万人(日本の4倍以上)を超えているといわれ、その内8割以上が個人だと聞いた。これは自伐林家と思ってよいだろう。この個人の内、6割が農家であり、また民宿や酪農などを兼業している例も多いようだ。

 このように、自伐林業は日本の林業を救い、中山間地域を再生させる、魅力ある大きな開発領域なのである。そのためにも自伐林業を展開できるプラットフォームを創り、地域と産官学が、力を合わせ展開していこうではないか。必ず大きな未来が開いているものと考える。

 最後に、自伐林業方式、自伐型林業は森林組合や業者と対立するものではない。森林組合や業者を排除するものでもない。現行林業の問題点を解決させる新しい発想の林業なのである。当然、業者も展開できれば、森林組合も個人やグループも展開できる手法である。全林業対応者への新たなる提案なのである。

補足
 自伐林業に対して、林野庁や県行政はこれまでほとんど支援事業をおこなっていない。それでも私どもがこの10年ほど努力したことによって、全国にもかなり多くの自伐林業の動きがでてきた。それに対して、一部の県や市町村が支援の取組を始めてくれている。500万円程度の予算でもたいへん大きな効果が上がってきている。6割の林家が「できたら自伐したい」と思っているのであるから、林野庁が自伐林業を担い手として認め、その育成に本腰をいれてくれさえすれば、自伐林業は大きく伸びることは間違いないと思っている。

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<参考>

自伐林業推進フォーラムを開催(NPO法人土佐の森・救援隊/2013.5.18)

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 このフォーラムには、中谷元氏(衆議院議員、農林水産戦略調査会会長)をはじめ、森林・林業に精通、真摯に林業界のこれからをおもうスペシャリストたちをお呼びしました。(中嶋)
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by npo-tosanomori | 2014-03-27 19:33